興味、反復、恋

映画を見て泣いてたので、何か書きたくなった。

若いのが素晴らしいのは何故だろうか。一般的に、老人になればなるほど記憶力が低下すると考えられているが、それは違う。記憶するための様々な材料は豊富にあるため、記憶する力は上がっているのだが、そもそもそれを記憶しようという興味が低下する。それが定説であるらしい。やたらと派手でいろんなことに口を突っ込む、つまり興味が尽きないおじちゃん、おばあちゃんの記憶力がやたらといいのはそのせいらしい。
記憶力を保つ鍵はもう一つ、反復にある。重要でもなんでもないものでも、何度も繰り返せばいつの間にか自分のものになっている。毎日行くスーパーの歌をいつの間にか口ずさむほど覚えているのはそのせいだろう。
となれば、良く聞かれる恋人たちの会話は実に的を得ている。「え、今日誕生日だっけ?」「覚えてないの?興味ないからよ。興味があったらカレンダーを見るたびに思い出してるはずだワ」と始まる喧嘩は、「興味」と「反復」という点で実に的確な指摘である。
さて、若いと何にでも興味を持つ。この世は知らないことだらけだ。初めて飲んだコーヒーの苦さ、ビールのまずさ、タバコのむせる感じ、初恋の心臓がきゅっとなる痛さ、失恋したときの止まらない嗚咽。どれも最初の一口は覚えているというものだ。痛かったり、苦かったりする記憶が多いのは、生存に関わるのは、肯定的なものではなく、危険を伴う否定的なものが多いので、そちらをより記憶しやすいことから生じている。
反復練習も容易だ。頭が空っぽなので言われたとおりに繰り返す。過去の中国で科挙に受かるために千字文をとにかく反復したというが、歳が上がるに連れて受かりく悪くなったとの話をどこかで読んだ記憶があるが、それは反復をしているうちに、妙な知識が多くなり、雑念が入りやすくなるからではないか。
「興味」と「反復」。そして、恋、を考えている。
若い頃は、こんな人もいるんだ、そういう風に考えたりもするんだ、と驚きの連続だった。同性を話すと、妙な競争意識が働いて素直に感動できることが少ないのだが、異性だと、不思議とすっと入ってくる。質問の受け答え一つ、表情の変化一つ、吐息の一つ一つがどれも異なっていて、どんな瞬(まばた)きから発する小さい風にも、心が踊った。
もっと知りたいと思ったし、ずっと居たいと思った。その時間がすぎる頃は、ぎゅっと心臓が握りつぶされて、泣くまいとしても涙が止まらなかった。
そんな恋を反復した。
若い頃は、恋は一つしかなくて、いや、正確にはお互いに恋に落ちることは、一生に一度しかなくて、それ以外は全て恋じゃないと決めつけていた。今でもまだ少しそう思っている。未来の自分がどう思っているかはわからないが、その未来の自分になって過去を振り返ってみると、やはり恋は一つだけなんだと思っている。問題は、いつそれに気づくか、なのだろう。
でも、一つの恋がはかなく散るたびに、次の恋を探した。季節がめぐるように恋をした。それは全ての季節が美しいように、やはりとても美しかった。
恋を繰り返したが、どれも違う恋だったからなのだろう。恋を記憶することはなかった。どれもどこか心に違った養分と重ならないように傷を残しながら、また違う恋をしていた。
記憶できていないからかもしれない。だからずっと痛いことを学ばなかったし、いつも新しく笑顔にほころび、深夜まで眠れずに泣いた。
そんな気持ちを思い出している。
泣くのは、とっても稀なことなのだけれど、とっても気持ちがいい。泣かない時期がずっと続くと、どこか、心に無理が来てしまう気がする。
体や、仕事を休めてあげることはあっても、心が休めていないことがある。
そういうときは、どんなことでもいい、友達でも、映画でも、音楽でも、昔の写真でも、文学でもなんでもいい、自分の心に風通しがいいように小窓を開いて、感情につながる糸のほつれをほぐしてあげたほうがいい。
そうすると、いろんなことに素直になれるから。
そんなことを考えていた。
それにしても僕は、昔の自分の文章を読むと、まだ心がとっても無防備に開いてしまう。
まだ心のどこかは、しわくちゃになった顔ほどには、シワがよってないんだろうな。
それを伝えたときの君の反応はどうなのだろう。
そう考えたところまできて、ようやく涙でとっても悲しかった気持ちが緩んだ。
悲しいのは嫌いだ。とっても苦手だ。でもその悲しさにずっと蓋をし続けるとやっぱりどこかで無理が来ちゃうんだもんな。面倒くさい自分なのに、でもやっぱりどこかで心を開いていたいと思う。
無防備に開かれた心、それが若さなんだろうな。
いつもトラップをたくさん仕掛けて、なかなか開けないようにしている自分を少しだけ反省してみる。ほんのすこしだけ、ね。
 
 

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